第58回日本七宝作家協会展選評

第58回日本七宝作家協会展(公募) 選評

内閣総理大臣賞
星野　玲 Hoshino Akira	《南北御守大蜥蜴》
審査委員　藤田　仁
(公益社団法人日展会員)
星野　玲さんの作品「南北御守大蜥蜴」は、多くの応募作品の中から内閣総理大臣賞に選ばれました。通常の感覚では、気持悪いと感じる爬虫類ですが、作者はあえて具象表現でのトカゲとヤモリを一対にして、造形力ある作品に創り上げています。細密に観察され、具象で制作された描写力ある一対のトカゲとヤモリからは、鑑賞する側に、一瞬の驚き・迫力ある存在感・美しさ、また内包された作者の制作意図が優しく伝わり生命を感じます。　技法としては、巧みに金属加工をした七宝のベースに、釉薬の個性ある色彩・ガラスの透明感を活かし、丹念な仕事で完成度のある七宝の作品になっている。　幸運をもたらすトカゲ、家を守るヤモリを一対で「御守り」を意図した作品は、心奪われる魅力ある創作であり、作者の表現の勇気・熱い想いが感じられます。

星野玲

文部科学大臣賞
濵口豪太 Hamaguchi Gota	《眼差しに微笑みに今朝のおはように、精一杯の愛を込めて》
審査委員　田口史樹
(神戸芸術工科大学生産・工芸デザイン学科准教授/公益社団法人日本ジュエリーデザイナー協会理事)
だまし絵の手法を巧みに取り入れた本作は、31体の動物によって一体の象を描き出すという、ユニークで絵画的な構成のブローチに仕上げられています。各動物は、緻密かつ繊細な有線七宝の技法によって、一つひとつ丁寧に表現されており、デザイン、構成、技術のすべてにおいて高い完成度を誇ります。とりわけ、有線の巧みな扱いや色彩による調和が、それぞれの動物の個性や存在感を見事に引き立てています。また、動物たちの表情やしなやかな動きには生命感が宿っており、遠くから見ても、近くで細部を追っても楽しめる魅力的な作品となっています。各動物一つひとつに込められた作家の想いやこだわりが丁寧に伝わってくる本作は、まさに受賞にふさわしい完成度を持ち、今後のさらなる活躍を期待させる印象的な大作に仕上がっています。

濵口豪太

造幣局理事長賞
鈴木まき Suzuki Maki	《道惑い》
審査委員　春田幸彦
(公益社団法人日本七宝作家協会副会長)
本作は、「途方にくれ彷徨い歩く心境」というコンセプトを、陰鬱な雰囲気ながらもネガティブにならず、独特な色彩と表現方法で力強く描き出している。銅の角針線や縁の溶融、透明釉などを活かし、金属と釉薬の調和が美しく、七宝の魅力を存分に引き出している。ドローイングの勢いを金属線で表現するためには高い技術と感覚が求められるが、計画性と直感が見事に融合し、絵画にはない質感を実現している。さらに、炉内サイズによる分割という七宝の弱点も、意匠として自然に取り込まれており、完成度の高い作品となっている。

鈴木まき

東京都知事賞
斉藤芳子 Saito Yoshiko	《 Roots 》
鑑・審査委員長　岩田　広己
(公益社団日本七宝作家協会会長)
タイトルを「Roots」とし、古代からの人間のルーツをテーマにした作品である。人間は地球上に存在する生物の中で、唯一、高い知性と理性を持ち合わせ、これまで文化を築いてきた。芸術において、元来は生活の上で人間が豊かに生存するために、見えない何かに縋り、呪術的な要素を持ち合わせて表現が始まったと言える。それはある意味、人の潜在意識として利己的な側面と利他的な側面が相まって、人類の発展の願いやアンチテーゼなど様々なモチベーションにより、芸術は脈々と受け継がれてきている。戦争が絶えない今日、我々は何処へ向かっていくのか考えさせ、人間として根源的なテーマといえる。七宝という割れやすくも褪色せず普遍的な素材を通して、思いのこもった伸びやかな線や色の表情は、今後の明るい未来の期待が込められた表現となり、社会に対してメッセージ性のある優秀な作品である。

斉藤芳子

審査員特別賞
李　鎧蓉 Lee Kai Rung	《空のまなざし、家のぬくもり》
審査委員　白幡明
(公益社団法人日本工芸会正会員/埼玉県美術家協会副会長)
この作品を初見した時は「家」であった。開かれ、作者の想いが現われる。精巧に造られた金属の枠が成せる表現となっている。このアイデアに審査員一同「なるほど」・・・と。真に絵本となったペットの物語、そこには作者の優しさがこめられ秀作となった。

第58回日本七宝作家展受賞者一覧

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